テクノラボ講座その3:「素材の選択」

素材の選択

「プラスチック」と一口に言われていますが、実際にはその中に多くの種類があります。
ABS、アクリル、PET、ナイロンなど、聞いたことはありませんか?
でも実際にはその違いは分からない方が多いと思います。

プラスチックで製品を作ろうとする方が知っておくべき「プラスチック素材の種別について」、大まかにまとめました。
素材の選定はとても奥が深い世界です。
興味を持たれた方は、更に細かく素材についてまとめられた本を一読することをお勧めいたします。

またプラスチックの長所は、素材を自由に着色出来ることでもあります。
ここでは「プラスチック素材の着色の仕方」についても記載しました。

もう一つ、「添加剤」についても最後にまとめています。
添加剤は、細かい部分の問題を解決したい時にこっそり使われるオマケのテクニックです。

なお、今回のお話しに先立って、素材区分の仕方から説明しなければなりません。

まずプラスチックには、「正式種別名」と「略称」とがあります。
正式種別名は化学式によって決まる英語/カタカナの名前で、略称はそれをアルファベット2または3文字で簡潔に表したものです。
例えばポリカーボネートという素材はPolyCarbonate/ポリカーボネートが正式種別名、その略称をPCと言います。

そしてそれらの素材にはさらに「製品名」と「通称」とがあります。
「製品名」は分かり易いです。 プラスチックの各素材メーカーが、各社材料ごとにつけている、自社のブランド名のことです。
ややこしいのが「通称」です。
時として「製品名」が正式種別名より有名になってしまうこともあります。
例えば「素材種別名」がポリアミドという材料ありますが、これはデュポン社によって「ナイロン」という製品名で販売されています
今ではナイロンという製品名があまりに有名になっていて、ポリアミドという正式種別名はむしろ知られていません。だからナイロンとい名前が「通称」として広く定着していたりします。

このようにプラスチックには、同じものでも名前がたくさんあるので、この講座では正式種別名と略称のみを使って説明を進めてゆきます。

プラスチック素材の種別について (主要用途について)

以下、用途ごとに適当な材料種別をまとめました。

① 特に要望が無い場合に最初に選定される素材

特に要望がない場合、価格が安くて問題が発生し辛い、汎用材料が一般的に選ばれます。このような汎用素材として、下記の素材が良く使用されています。

・ポリスチレン(略称:PS)
・ABS(略称:ABS)
・ポリプロピレン(略称:PP)
・ポリエチレン(略称:PE)

従来はこの中でもABSとPSが非常に多く使用されていました。
しかしこれらの材料価格が高騰し始めたことで、現在はPPがより多く使われる傾向にあります。またボトルなど食品関係によく使われるのがPEです。

ちなみにABSとPSは程々に硬さがある普通のプラスチックで、PSの方が割れやすい事からやや安っぽいイメージを持たれています。
PPは近年、多くの製品に使われるようになって来ています。背景にはPPが相対的に安いことと、技術進歩により様々な物性を持ったグレードの開発が進んだことがあります。なおPPは一般的には乳白色半透明で、ちょっと柔らかいのが特徴です。
PEも安価なのですが、耐熱性が低いからか、食品用途等以外の用途ではPPほどは見かけません。

 

② キレイな外観が欲しい時

ケースなどの外観部品としては、下記の素材が良く使用されています。

・アクリルニトリルブタジエンスチレン共重合体(略称:ABS)
・ポリスチレン(略称:PS)
・ポリカABS(略称:PC-ABS)

外観部品として一番使われているのは ABSです。成形性の良さ、着色時の発色、印刷のり、割れにくさ等、外観部品としては非常に優れた素材です。
またABSは樹脂の中で唯一メッキが出来る素材でもあります。
ただ価格がすごく安い訳ではないので、より安いPSが代替材料として使われることもあります。
その場合、PSはABSに比べてやや割れやすいことに注意しておく必要があります。

逆に落し易いなどの製品に使われる場合、ABSの長所に、ポリカーボネートの強靭さを併せ持ったPC-ABSが使われることがあります。
PC-ABSは携帯電話の筐体などに使用されていますが、材料費が高いのが難点です。

 

③ 落として壊れては困る部品(耐衝撃性)

・ポリカーボネート(略称:PC)
・ポリカABS(略称:PC-ABS)
・塩化ビニール(略称:PVC)

特に落として割れたりして困る部品にはポリカーボネート(略称:PC)が使われます。PCは非常に強靭な素材で、機動隊の盾にも使われています。
難点を挙げると元の素材が透明なので、着色しても若干透明感が残ってしまうこ点、使用する金型がやや高価になり勝ちな点があります。
ABSとPCを混ぜ合わせたPC-ABSは外観部品として使われることがあります。PCほどの強度はありませんが、ABSより遥かに強くなるためです。
PCよりも着色性も良く、きれいに作れるのですが、材料価格はかなり高価になります。
強靭さを持つ素材として、他にPVCやPAもあります。
PVCは安くて良い材料ですが、ダイオキシンが出ると言われて昨今はほとんど使用されなくなっています。
PAは価格がネックとなり、それほど使われることがありません。

 

④ 透明さが必要となる場合

透明な製品はとても魅力的です。
しかし透明な部品の生産は、単に材料を透明にするだけではなくて、生産上も様々な問題があるので注意が必要です。
多くの方が予想するより、透明な部品の製作は手間とコストがかかることは知っておいて下さい。

まず金型が高額になります。
通常、製品を作る際には製品の裏側は金型を磨く必要はありませんが、透明部品ではここも磨かなくてはなりません。
しかも透明な素材を作るためには、金型を丁寧に磨く必要があるので、この手間もかかります。
また製品の取り出し機構(突き出し)の跡が通常の金型では残ってしまうので、透明部品では取り出し機構にも注意が必要だからです。

また製品単価も上がってしまいます。
通常、プラスチック製品を作る機械は毎日違う製品(違う色)を生産しています。
でも透明な素材は、機械の中を完全にきれいにしなければ作れないので、機械を分解掃除しなければなりません。
実際それは無理なことなので、異物(ゴミ)が混じることを前提で製造がなされ不良品を廃棄することになります。
不良率が上がる分、製品単価も上がる訳です。

・アクリル(略称:PMMA)
・ポリカーボネート(略称:PC)
・アクリルニトリルブタジエンスチレン共重合体(略称:ABS)
・シクロオレフィンポリマー(略称:COP)
・アクリルニトリルブタジエンスチレン共重合体(略称:ABS)
・塩化ビニール(略称:PVC)

最も透明な素材で最も有名なのはアクリルです。全光透過率で90%以上あります。
また表面も大変硬く、傷が付きにくい点も魅力的な素材です。
ただ非常に割れやすい点が欠点で、落とすとすぐに割れてしまいます。
最近は割れにくくするためにゴム成分を添加したアクリルが普及しています。
ただゴム成分を添加したアクリルは透明度も落ちてしまい、アクリル本来の魅力が減ってしまうのが難しいところです。

PCは透明度が高く、しかもとても割れにくい素材です。一方でとてもキズがつきやすい点が欠点です。
最近のめがねレンズはほとんど全てPCですが、これはキズがつかないようにガラスの薄い皮膜が表面についています。
またPCは透明と言っても少し青みがかったものと、赤みがかったものとがあるので注意してください。
色にうるさい製品だと、コレじゃないと揉める原因になりますので。

最近特に光学用途などで使用が増えているものにCOPがあります。
COPは耐熱性が高く、高温でも膨張が少ない、黄変しにくい等の特徴があり、プロジェクターレンズ等に利用が増えています。
ただ材料費がかなり高額なので、PCにとって替わるほどではありません。

ABSにも透明グレードがありますが、透明度はあまり高くなく、あくまで雑貨レベルにとどまります。
PVCの透明グレードは、値段が安いわけでもなく、透明度が高い訳でもないので、近年はほとんど使われません。

なおPETボトルに使われるポリエチレンテレフタレート(略称:PET)も透明です。
これは素材そのものが透明な訳ではなく、特定の薄いフィルムに成形すると透明になる特性を持つ素材なのでこの中からは外しました。

※アクリルは、化学的な組成から見た場合「ポリメタクリル酸メチル」と呼ぶべきですが、メタクリルが訛ったアクリルという呼称が一般的なので少しルールからは外れますがアクリルと呼ぶこととしました。

 

⑤ 熱がかかるところで使いたい(耐熱性)

プラスチックは総じて熱に弱い素材ですから、熱がかかる部分には金属やゴムなどを使用するのが一般的です。
しかし自動車のエンジンルーム内や電気基板のハンダづけ工程など、かなりの高温環境下でもプラスチックが使われています。
このような耐熱性が高いとされるプラスチックには、次のようなものがあります。

・ポリカーボネイト(略称:PC)
・変性PPE(略称:mPPE)
・ポリアミド(略称:PA)
・ポリフェニレンサルファイド(略称:PPS)
・ポリエーテルサルホン(略称:PES)
・液晶ポリマー(略称:LCP)

PCはこれらの中では最も安価で、使い易い素材です。
mPPEは昔は耐熱プラスチックの主流でしたが、価格が高いことや成形性が良くないことなどで使われなくなってきています。
ただ無毒で耐熱水性が良いので、食品や医療ではまだ使われています。

PAは高温で使用される場合は、ガラス繊維の入った複合グレードが使われることが多いようですが、こちらも使われることは多くありません。
PPSは耐熱用途として近年非常に増えている素材です。

自動車のエンジンルーム内のポンプなど、耐熱水性・耐薬品性の良さから使用事例が増えている素材です。
PPSもガラス繊維などを入れた複合グレードが多いようです。
PESは上述の素材に比べると、相当高い素材なので、通常の耐熱性以上のさらなる要求がある場合に限って使われているようです。
LCPもPES程ではないですが高額な材料で、こちらは電気部品に限って使われている印象があります(コネクタ等)。

以上、紹介したのは熱可塑性樹脂と呼ばれるプラスチック素材です。
この他、熱硬化性樹脂と呼ばれるプラスチック素材もあります。
熱可塑性樹脂はロウソクのように温めると溶けて、冷やすと固まるプラスチック。熱硬化性樹脂はクッキーのように一度固まると、また温めてももう溶けないプラスチックです。

熱硬化性樹脂はもう溶けないので耐熱特性は優れていますが、製造工程が複雑になり製品価格がとても高くなるので、近年は使用されることが減っています。

・ユリア(略称:UF)
・メラミン(略称:MF)
・フェノール(略称:PF)
これらの熱硬化性樹脂は、コイルボビンやスイッチなど、耐熱と共に燃えたり溶けたりしては困る部分にのみ使われています。

 

⑥ ヒンジのように曲げるところに使いたい

・ポリプロピレン(略称:PP)
・ポリアミド(略称:PA)

安価なケースなどでは、ヒンジ部分もプラスチック部品が一体に 出来ています。 薄い部分が屈曲する構造になっているアレです。
このような使い方をすることが出来る素材は、PPになります。
ごく一部PAで作ることも出来るようですが、あまり見たことがありません。

 

⑦ 歯車のような機構部品

歯車については自己潤滑性と耐摩耗性が必要になるので、使われる素材が限られます。

・ポリアセタール(略称:POM)
・ポリアミド(略称:PA)
・ポリフェニレンサルファイド(略称:PPS)

・フッ素樹脂(略称:PTFE)
・ポリエーテルエーテルケトン(略称:PEEK)

一般的に一番使用されているのがPOMです。
安価で滑り性が良く、耐衝撃性も良好だからです。
耐熱性が要求される場所では、PAやPPSが代わりに使われています。
そしてより高い耐熱性や耐薬品性が求められる時にPEEKやPTFEが使われますが、これらの素材を使うと製品単価が飛躍的に跳ね上がってしまうので、かなり特殊な場合しか使用されないのが実情です。

 

⑧ 薬品がかかる(耐薬品性)

多くのプラスチックは、薬品に弱いものです。 酸やアルカリといった薬品がかかると、溶けたり割れたりしてしまいます。
それでもこのような用途に用いられる素材も存在します。

・ポリプロピレン(略称:PP)
・ポリエチレン(略称:PE)
・ポリアミド(略称:PA)
・変性PPE(略称:mPPE)
・ポリフェニレンサルファイド(略称:PPS)
・ポリエーテルサルホン(略称:PES)
・フッ素樹脂(略称:PTFE)
・ポリエーテルエーテルケトン(略称:PEEK)
・ポリエチレン(略称:PE)
・テフロン(略称:PTFE)

このうちテフロンだけは非常に高額です。
しかし薬品に強い素材としてとにかく普及していますから記載することとにしました。スーパーエンプラと呼ばれる一部の素材もこの耐薬品性が高いことで有名です。

 

⑨ 屋外で使いたい(耐性)

意外に知られていないことですが、ほとんどのプラスチックは太陽の光にとても弱いのです。
太陽光に含まれる紫外線によって素材が劣化して、割れたり壊れたりしてしまいます。

・塩ビ(略称:PVC)
・ポリカーボネート(略称:PC)
・アクリル(略称:PMMA)

・エーイーエス樹脂(略称:AES)

屋外で一番良く使われているのがPVCです。雨樋いや塩ビ管などでおなじみですが、塩ビは耐候性がとても良い材料です。一時期燃やすとダイオキシンが出るということで大変に嫌われましたが、実は非常に優れた材料なので今でも多くの建築材料には塩ビが使われています。
またポリカーボネートとアクリルもたまに使われることがあります。
多くはその素材の透明さを生かして、透明屋根などに使われています。
製品としては、AESが耐候性が高いとして知られていますが、この材料も比較的高額です。
基本的にプラスチックを屋外で使うことは余りお勧めできませんが、それでも上記の素材はかろうじて屋外で使用されることに耐えうるでしょう。

 

⑩ 食品衛生法の基準をクリアしたい

食品衛生法で食べ物の包装容器に使うプラスチック素材は、細かく規制されています。 煮沸した際に溶出する成分を測定して、その上限が定められているのです。食品に使われるプラスチック部品は、毎回この試験を受けることが原則ですが、実際にはすでに食品衛生法の試験をクリアした素材が食品衛生法通過グレードとして販売されています。
このような素材には、下記のものがあります。

・ポリエチレン(略称:PE)
・ポリプロピレン(略称:PP)
・フッ素樹脂(略称:PTFE)
・ポリサルホン(略称:PSU)

最も良く使われているのはPEです。安価で低温特性も良く、異物の溶出もほぼありません。
PPはPEより少し高いですし、耐熱も低いことが多いのですが、やはり安全な材料として使われます。
耐熱用途としてはPTFEが有名ですが、非常に高価になってしまうので、これなら金属を使ったほうが良いケースも多いです。
PSUはPTFEほどではありませんが高価なので、搾乳器など、耐熱が必要な食品容器の一部で使用されるにとどまっています。

⑪ 量を使うので、安くしたい

雑貨など、とにかく素材の費用を下げたいときに使用されるのが下記の素材です。

・ポリプロピレン(略称:PP)
・ポリエチレン(略称:PE)
・ポリスチレン(略称:PS)
・アクリルニトリル・スチレン共重合体(略称:AS)

もっとも一般的なのはPPとPEの2つです。
また雑貨などできれいな外観が必要な場合はPSやASが使用されることがありますが、これらの素材はとても割れやすいのでちょっと安物感が出やすくなってしまいます。

 

⑫ 柔らかい

身体につけたり、質感が求められたりすることから、柔らかい素材が流行っています。 従来はゴムで製作していましたが、コスト面から加工費の安いプラスチック系材料に置き換わりが進んでいます。
これらの柔らかいプラスチックとして下記の素材が挙げられます。

・ポリエチレン(略称:PE)
・シリコーン(略称:SI)
・熱可塑性エラストマー(略称:TPE)

ポリエチレンは重合度合によって固さが変わる便利な素材なので、かなり柔らかいものまで流通しています。
また安価で無毒なので食品系には多く使われていますが、耐熱が低く、少しでも熱がかかる所には使えません。
エラストマーは素材名ではなくて、他の種類に含まれない柔らかい熱可塑性プラスチックの総称です。
ですからエラストマーの中には色々な種類があるのですが、総じて高額な素材が多いです。
それでも加工費自体は安くなるので、近年ゴムからエラストマーへの代替がすすんでいます。
シリコーンは耐熱性も良く、不純物が少なく体に与える問題が少ない材料です。
非常に高額な材料なので、特に医療用途で普及がすすんでいます。

 

⑬電気部品に使いたい

電気部品に使われるプラスチックは、絶縁性・耐アーク性・難燃性などを求められることが多く、限られた材料が使われています。

・アクリル(略称:PMMA)
・塩ビ(略称:PVC)

・フェノール(略称:PF)
・ポリブチレンテレフタレート(略称:PBT)
・液晶ポリマー(略称:LCP)
・ポリフェニレンサルファイド(略称:PPS)

たくさんの電気が流れる場所をプラスチックで絶縁していると、電気が流れようとしてプラスチックに穴を開けてしまいます。
これが起きにくいのが耐アーク性がある素材ですが、アクリルは耐アーク性が高い材料として昔から電気の絶縁材に使われています。
また塩ビとフェノールも難燃性から良く使われていましたが、近年は価格の問題から使用量が減っているようです。
代わって近年はPBT、LCP、PPSといった新しい素材が電気部品に使われることが多くなっています。

 

色の選択

プラスチックの長所は、素材を自由に着色出来ることで、金属や木材とプラスチックが大きく異なるのはこの特性です。
自由に着色できるからこそ、逆にプラスチックの素材には決まった色というものがありません。
あるものといえば、他の色に染めやすくするために一切の色材を含んでいない「ナチュラル」と、他の色を全て受け入れない「黒」、それから素材によっては透明が存在します。
材料メーカーが「顧客のために基本12色を用意しておきました!」というような親切な材料は無いので、プラスチックで製品を作る場合、かならず自社でオリジナルに色を作る(調色する)作業が必要です。
この調色作業について、この項ではまとめています。調色の流れは一般的には次のように決まります。
※なおこの色の調色はプラスチック製品開発の中でいつも問題が発生する所なので、十分注意してください。
というのは殆どの人が気づいていないことなのですが、「色」は絶対的なものではなくて、とても主観に左右されるものだからです。
たとえばやや青みがかった青色が2つあったとして、北向きの窓で太陽光に照らしてみると同じ色にみえるけれど、部屋の中で蛍光灯の下で見ると違って見える、ということは常に起こります。
日本人は色に極めて敏感ですから、色が原因となってもめることがとても多いので、注意が必要です。

1.色を選ぶ

色を選ぶというのは実は大変な作業です。
プラスチック製品の質感を決める要素として、色は一番大きなウエイトを占めていると言っても過言ではありません。

「安っぽい!」と不満だらけだった品物の色を、僅かに変えただけで劇的に評価が上がったという経験をしたことは一度や二度ではありません。
色を選ぶ作業を軽視してしまうと、最終製品のクオリティーを著しく下げてしまうということだけは事前にご理解頂きたいと感じています。
ですから色を決める際に、素人だけで決定するのは極力さけ、プロのデザイナーと一緒に進めた方が良いでしょう。

 

2.決めた色を指示する

色の指示は一般的に色見本帳を使用します。
色見本帳とは、様々な色が印刷された冊子のことで、DICやPANTONEといった有名な色材メーカーから販売されています。
海外ではPANTONEが多く使われており、日本国内ではDICがよく使われています。
プラスチック業界では白のバリエーションが多く使用されるのですが、これらの色見本帳には白のバリエーションが少ないです。
そこで白系統の色指示をする場合、日本塗装工業の色見本帳を使うことも多くあります。

偶にパソコンのモニターで見たCMYKやRGBで色指示をされる方がいらっしゃいますが、全く当てにならないので止めてください。
確実に問題の原因となります。

3.色見本帳で選んだ色(カラーチップ)を基にプラスチックの板見本(カラープレート)を作る

色見本帳を使って指示すると、プラスチック材料の調色をすることができます。
そして調色したサンプルとして、材料メーカーから「カラープレート」が届きます。
色見本帳は紙、カラープレートはプラスチックの板ですから、同じ色味でも雰囲気はかなり異なります。

調色し直してカラープレートを作り直すことは可能ですが、それには時間とお金がかかります。
一般にこの作業にかかる日数は2~3週間程度ですので、直前の色変更は難しいことが分かると思います。
できればプラスチックに変わった時のイメージを持ちながら、色見本帳で色を選択できる実力がある方と一緒に色を選定して頂きたいところです。

4.カラープレートで承認する

調色の為に出来上がったカラープレートで問題がなければそのまま生産に使う材料を着色することになります。
通常はこのカラープレート承認から3週間程度で製造用の材料が届くことになります。
その意味でカラープレートの承認は最低生産の1ヶ月前までに終わらせなければなりません。
ちなみにカラープレートには、上限と下限が設定されていることもあります。 これは上限と下限の範囲で色ブレがおこることを意味します。

 

5.その色の材料で製品を作ってみる

以上の承認を受けた素材で製品を作ることとなります.
ただカラープレートで承認した材料をつかって製品を作ってみると、イメージが結構変わることが多いものです。
例えば、製品表面の仕上げ方で、細かいシボがあったり、光沢だったりで色のイメージは大きく変わってしまいます。
だからプレートではOKしたけれど、製品ではトラブルになることも皆無ではありません。
実際の製品出荷直前になって「色が違うから製品が間に合わない!」とならないよう、事前に十分なスケジュールを立てておくようにして下さい。

また、どこまで色のブレを許容するのかについて、自身も明確な基準を持っておく必要があるでしょう。
(例えば、家庭の蛍光灯の下で使う時の色味でこの位になるようにして欲しい、とか)

 

6.量産がスタートする

ようやく量産がスタートしてもまだ気を抜くことはできません。
特に白系など明るい色や透明の素材では、その後も問題が生じるためです。

プラスチックの製品を作る機械(射出成形機)は大量生産のための非常に高額な機械です。
ですから1台の機械で取っ替え引っ替え色々な製品を作っています。
当然機械にはこれまでの生産でこびりついた色々な色の材料が残ってしまっています。
これらが「異物」として製品の表面に浮き出すことが多々あるのです。
特に明るい色の製品では、この異物が目立つことが多いので、十分注意してください。

また透明な素材では何か透明度が足りないということもしばしば起こります。
これは成形条件によって起こるトラブルなのですが、解決することもあれば解決できないこともあります。
ここでもどこまで許容するかについて、自身も腹積もりをしておく方が良いでしょう。

以上のプロセスを経て、色が決められていきます。
たかが色、されど色という点、事前に十分覚悟をされることをお勧めします。

 

添加材の選択

ここから先は豆知識程度にご覧ください。
将来何かのトラブルが生じた時、思い出して頂ければ。

あまり語られないことですが、材料は添加材をごく小量添加することで物性を変化させてあげることが出来るのです。
以下にあげるような添加材が市場に出回っているので、困った時に添加してあげると問題が解決するかも知れません。

1.帯電防止剤

プラスチックにホコリが付着して黒ずんでしまうことがありますが、この添加材を使うとそれを回避することが出来ます。

プラスチックは帯電しやすいのでホコリを吸い寄せて、表面がホコリで黒くなったりします。
特に乾燥した冬などは、出荷前の製品にホコリがついて出荷できないことさえあります。
このような静電気を起き辛くするのが「帯電防止剤」です。
基本はプラスチックの絶縁性を少し下げてあげることで、帯電しにくくするのがこの添加材です。
電気廻りに使うのでなければ、結構有用な添加材です。

ちなみにカーボンなどの導電材を入れた材料でも、帯電防止剤と同様の効果が得られる場合があります。

2.難燃剤

通常は難燃グレードとして売られている素材のほとんどは、これらの難燃剤を添加しています。 逆に言えば、従来の素材にも難燃剤を添加すれば難燃グレードに変えることが出来るわけです。
現在、難燃グレードの材料は非常に高額です。 というのは添加しているのが高価なノンハロゲンタイプの難燃剤を使っているためです。
ノンハロゲンタイプは安全性が高いのですが、燃えても人が吸い込む危険がない場所の難燃材としては、安価なハロゲン系のものを使用することもできます。
そうすることで、難燃グレードの材料を安価に入手することも出来る訳です。

3.増量剤

近年は石油価格高騰の影響を受けて、プラスチック素材の値段もうなぎ上りです。少しでもこの影響を抑えるために各種の増量剤が市場に出回っています。非常に細かいガラスのビーズや炭酸カルシウム、果ては火山灰まで様々な素材を混ぜて少しでも使われる素材の量を減らそうとしています。
しかし万能の充填材というのは無いようで、ニーズの割には普及が進んでいません。

4.蛍光増白剤

特に白い材料の中に入っていて、素材の白さを出す為に使われています。 プラスチックは素材色が黄色がかっているものが多いので青色を足して白く見せていますが、それだけでは白く見えません。
そこでこの蛍光増白剤を添加して、人の目には白く見えるようにしているのです。

実はこの蛍光増白剤には別の使い方があります。
それは裏にライトがある時、蛍光増白剤が入っていればライトの光を増幅して表から光がみえるようになることがあるのです。
防水用途などでライトの光を透す開口部が作れない時など、便利な添加材です。

5.耐光剤、耐候剤

屋外で使用できる素材は限られています。 原因は紫外線によってプラスチック素材が劣化してしまうからです。
耐光剤は紫外線を吸収することで本体の素材が劣化するのを防いでくれる役割があります。
やむを得ず表で使用することが増えてしまうような場合、これらの添加材を加えて少しでも屋外耐性を良くしてあげることが出来るようになります。

6.拡散材

透明な部品の裏から光をあてると、光は製品の中を通り抜けるので案外外からは光っているようには見えません。
ところがこうした部品を光らせたいこともあるので、このような時には拡散材が使われることがあります。
拡散材を入れた部品は、均一に光るようになるのです。
例えば、自動車のスピードメーターの針などに良く使われています。

 

以上の他にも、市場には多くの添加材が存在します。
困った時に、添加材として調べてみると解決策が見つかるかも知れませんよ。