デザインと設計の違いはじめて「設計」という言葉を聞いた方は、「デザインと何が違うの?」と感じることが多いでしょう。 まずはそこから説明いたします。
デザインの稿で述べた内容で言えば、デザインが「売れる」という目標を達成するためにより広い範囲の仕事をしているのに対して、設計はデザインが決めた枠内でより深く、具体的かつ詳細なディテールを仕上げてゆく仕事です。 当社が頻繁に行うIoTデバイスのケース設計では、例えば次のような作業をしています。 ・外形についてデザインに従って正確な寸法を設定する 割と細かくて深いですよね。 因みにデザインと設計には、どちらも英語ではDesignと訳語が充てられます。敢えて正確に表現しようとするならば、デザインは「Styling Design」、設計は「Mechanical Design」と書き分けることも出来ます。
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設計の役割の重要性と難しさプロダクトデザインの世界で近年よく用いられる「デザイン思考」の本によれば、製品開発の成功を決めるポイントとして、3つを挙げています。
製品そのものの<有用性>、<実現性>、<経済性>です。 この3つの観点から見ると、デザインの範疇になるのは「製品の有用性(その製品が消費者にとって役に立つかどうか)」です。 また「設計」は、作業が製品の販売期間中ずっと続くという側面を持っていて、これが更に開発における設計の重要性を高めています。 製品を作ると、後工程で当初予見しなかった問題が次々発生しますから、この問題を解決するために継続的な設計修正が必要になるのです。 同じような冷蔵庫を何十年と作り続けているメーカーでさえ、新機種の設計後には予見できなかった問題に直面します。 製品開発の難しさは、継続的に発生する問題に対して、常に設計が適切な答えを出し続けられるかだと言えます。 |
なぜ製品開発の失敗が起きてしまうのか?最近、クラウドファンディングでファンドを集めたものの製品を出荷できないというトラブルが増えています。
①そもそも設計や製造プロセスに関しての知識が圧倒的に不足している最も多いのが、製品設計や製造プロセスについての基礎的な知識と情報が不足しているケースです。
②設計意思決定について経験不足一般的な製品開発の知識があっても陥るのがこの失敗です。 ちなみに製造業の行う受託事業は、通常の商品売買と異なり、取引による利幅は元々非常に薄いものです。
③意思疎通の問題(海外での開発)海外生産に開発・生産委託を行って上手く行かない、という失敗は最近はかなり減ってきたように思いますが、それでも一定数はこの手の失敗を耳にします。 それぞれの国や地域には事情があり、優れた所(例えば安いとか早いとか)があれば、劣った所(例えばポカが多い、とか)もあります。 なお実際問題として「品質」については日本の市場は海外よりも高いものを要求しています。
④製品開発の意欲不足最後に一番大きな原因を挙げておきたいと思います。 以上4つの理由が、製品開発の失敗で良く見かけるものです。
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あるべき設計手法(メカに関して)製品開発において、メカの設計はどのように進めるべきなのでしょうか?
まず最初に自社内で設計を進めるか、それとも外注に委託するかという選択を行う必要があります。 次に外注に委託することを選択した場合、どのような属性を持った外注に委託するかを判断する必要があります。それぞれについて詳細に見てゆきます。 ①自社で設計人材を育成する社内に設計人材を育成する方法であれば設計が持つデリケートな問題、すなわち継続的な設計対応に対処することが容易になります。
設計は重要であるからこそ内製化するという考え方です。 内製化には次に挙げる2つの方法があり、それぞれに長所短所が存在します。 設計スキルを有する人材を採用する設計スキルを有する人材を中途採用して設計を進めるという選択肢がまず考えられます。 反面で製品開発の初期、販売に至るまでの間ずっと人材を抱えるという費用を負担しなければなりません。 もし、何かの縁で十分に設計能力があると信じるに足る理由がある人を採用することが出来て、かつ彼/彼女を遊ばせておく金銭的余裕があるのであれば、この方法が最適だと言えます。
自社内の人間を教育する次に社内の人間を教育育成するという選択肢が考えられます。 実際社内で人材を教育するのは非常に難しいと思います。ソフトウェアのコーディングと異なり、ハードウェアの設計は入門書や基本書が極めて少ないし、不十分なことが多いです。学習のためには実際に経験する必要がありますが、経験するにはモノを作るという実地訓練が必要です。ソフトウェアと比べてハードウェアは実地訓練にかかる費用がケタ違いなのです。 もし社内の人間が、既に他の分野の設計経験があって、かつ技術の習得が非常に速そうだという見込みがあり、かつ教育するために実績ある人間の指導が受けられる環境を準備できるのであれば、この方法は適切だと思います。
②外注に委託して設計する以上のように社内で設計人材を準備するというのは、数多くの問題を孕んでいて一朝一夕に出来ることではありません。
多くの場合外注を使って設計委託をする企業が多くなっています。 次に設計委託を行う場合の選択肢について考えてみます。 設計外注に委託する外部に委託する場合、最初の選択肢に挙がるのが設計外注への委託です。 それに対して設計を受託する企業はどうでしょうか? そして更に残念なことは、委託者自身が設計の良否を判断する能力を持っていないのです。 量産メーカー/EMSに委託する設計外注と比べて量産メーカーに設計も含めて依頼する方法は、最終の供給製品を前提として委託する方法ですから、委託者と外注メーカーの利害が一致し易く、エージェンシー問題も発生しづらい選択肢です。 ですからこの方法が一番失敗が少ない方法だと思うのでお薦めしたい方法です。 試作メーカーに委託する最近は試作品を製造するメーカーが設計も受託するケースが増えています。 納期が極めて限られていて、かつ総生産量が著しく少ない場合(数個~十数個)、これらの不利な点が全てなくなるために、とても有効な選択肢になると思います。
デザイナーに委託するデザイナーにデザインを委託した後、そのまま製品の供給までデザイナーが請け負うという選択肢があります。 如何せんこのような製品までの受託をするデザイナーは、極めて少ないのが実情です。 |
設計手法についての近年の動向以上、設計は非常にややこしい部分があることを説明してきましたが、近年の動向としてはこうした問題が少しずつ和らいでいる方向にあります。
3Dプリンター等の試作技術の進展と低価格化によって、実物を使って設計を検証することがより容易になって来ていることが背景にあります。外注に委託する場合でも、委託者が図面から全て読み取る必要はなく、わかり易い実物を使って評価と指示をすることが出来るようになりました。 意思疎通も図りやすくなりましたし、相手も評価がし易くなっています。 社内内製化する場合は、設計者のスキルが不足する部分を実物を使うことで補うことが出来ます。 問題点が認識し易くなりますから、設計スキルが向上するスピードも速まります。 こうした試作技術の進展によって、設計自体が年々身近なものになりつつあるのです。ただ3Dプリンターをそのまま量産に使うというのは、やや早計だと思います。 マスコミで騒がれているほど、3Dプリンターは万能ではありませんし、何より実用品とするには外観レベルが余りに低い完成度です。 試作以上の使われ方がされることは、当面はほとんどないだろうと思っています。 |