テクノラボ講座その5:「金型製作」

金型は鯛焼きを作るときの型をイメージしていただければいいと思います。射出成形を始めとする多くの成形方法で、必ず必要となるものです。小量製造するような場合には、この高額な金型がネックになります。
大量に作る場合は金型が高くなっても製品一個あたりに割ってあげれば大した金額にはならないものです。むしろ製造単価が安くする方が大切になるのです。ところが少ししか作らないのに金型などの初期費用が高くなると、製品一個あたりにするとべらぼうな金額になってしまいます。
そこで量は作れないけれど金型のコストが安くなるような代用品が幾つも考えられてきました。
ここでは、量産型と簡易型について説明します。

量産型

量産型こそ日本の金型メーカーが最も得意とする分野です。
金型は初期費用ですから、例えその価格が倍であっても、耐久性が3倍ならば結果として安いものになるという商材です。
そして数十万個から数百万個という数を繰り返し製造する為に使われるので、わずかな狂いから生じる歪みを累積するものです。その狂いは鉄の塊である金型をいとも簡単に壊してしまうのです。作った企業の技能が耐久性=コストに直結するものなのです。
そこでアイフォーンのように数百万個作るような工業製品ならば、日本の金型を使いたいと、世界中の多くの企業が思っています。
しかし大きな問題は、日本で金型を作ろうとも、結局組立が中国になるならば、量産はその傍にならざるを得ず、金型も中国に持ち込まなくてはならないということです。そして中国に金型を持ち込むためには多額の関税を払わなくてはならないのです。
こういった背景から、日本の優れた金型メーカーはその技術を奮うことなく廃業させられていることが多くあります。世界のモノづくりにとってとても残念なことです。
量産型で使われる中で、最も安い素材のことを「生材」と呼びます。型 材質的にはS50CやSS400、P-50と呼ばれる素材で、鉄そのものに近い素材です。他の金型材が熱処理(焼入れ)をすることと較べて、「生(なま)」と慣習的に呼び習わしています。 素材が柔らかいため、耐久性には劣りますが、手軽で加工費が安く、修正も容易なことから良く使われる素材です。 一般的には数万から十数万個を上限として製作する場合に使われています。

 

簡易型

① 樹脂型

樹脂型とは、文字通り鉄の代わりにプラスチックで作った金型代用品です。 いわばプラスチックでプラスチックを作るようなものです。

<作り方>

真空注型のシリコーン型を作るのに似ています。
まずマスターとなる製品を初めに作ります。
次にこのマスターをどこで左右に分けるかを決めて、分け目にフィルムを貼ってパーティングライン(金型割目)を決めます。
そしてプラスチック材料(METZ材)を流し込んで固めます。
パーティングラインで型を開き、マスターを取り出します。
金型に取り付けるための穴や、製品を取り出すための突き出しピンなどの穴をつけて完成です。
この樹脂型を「ベース」と呼ばれる金型土台に設置すれば、金型同様射出成形を行なうことが出来ます。
ほとんどが1970年代に流行ったMETZ材と呼ばれる素材を使っています(METZ材とは、エポキシにアルミ粉を入れたものに、気泡が抜け易くなるような添加剤をくわえたものです)

<長 所>

耐久性は100ショット程度ですが、簡易型の中では最も安価に出来るのでかなり普及が進んだ時期もありました。

<短 所>

マスターからコピーして製作するため、どうしても寸法精度が悪くなってしまいます。 また鉄の金型と違い断熱性の良いプラスチックですから、放熱しづらく射出成形がしづらいのも欠点です。何といっても柔らかいので、ちょっと機械が押しすぎてしまうと直ぐに壊れてしまいます。

<まとめ>

現在ではほとんど加工するメーカーがなくなってしまっていて、自動車の量産試作の部品供給をする一部のメーカーが残っているだけです。
この技術が普及した当時はまだCADやNC加工機というものがなく、金型は手で計りながら削っていた時代です。 金型が非常に高価でかつ失敗も多かったので事前に「試作型」を作ってテストするというニーズが強くありました。樹脂型はそんな時代背景を受けて登場したのです。
その後のCADやNC工作機の普及で、試作型なしに量産型を作るというのが一般的な流れになりました。折りしも大量生産が全盛の時代で、このような小量試作技術は必要とされなかったのです。そして樹脂型も役割を失い、衰退してゆきました。

② ZAS型

これは低融点合金を使って作る代用金型です。
亜鉛やスズなどの低い温度で溶ける低融点合金(ZAS)を使って型をつくることからZAS型と呼ばれます。

<作り方>

マスターを使ってオスメスの型を作る点では樹脂型を作るのに似ています。
まずマスターとなる製品を始めに作ります。
次に石膏を使ってこのマスターの型を取り、さらにその型から石膏でマスターのコピーを作ります。
石膏マスターをどこで左右に分けるかを決めて、分け目にフィルムを貼ってパーティングライン(金型割目)を決めます。
そして低融点合金を流し込んで固めます。
パーティングラインで型を開き、石膏マスターを取り出します。
金型に取り付けるための穴や、製品を取り出すための突き出しピンなどの穴をつけて完成です。
この樹脂型を「ベース」と呼ばれる金型土台に設置すれば、金型同様射出成形を行なうことが出来ます。

<長 所>

耐久性は1000ショット程度ですが、樹脂型ほどではありませんが比較的安価に出来るので一時期はかなり一般的な技術でした。

<短い 所>

マスターからのコピーが多く、寸法精度が悪くなってしまいます。 ZAS材は金属とは言え鉄と較べると放熱が悪く、射出成形がしづらいのも欠点です。

<まとめ>

現在ではほとんど加工するメーカーがなくなってしまっていて、自動車の量産試作の部品供給をする一部のメーカーが残っているだけです。
樹脂型と同様の時代背景で登場し、衰退してゆきました。

③ アルミ型

これは金型用の金属ではなく、アルミを使って作る代用金型です。

<作り方>

基本的には金型素材としてアルミを使う以外は普通の金型を作るのと同じように作ります。

<長 所>

アルミは鉄と較べて切削性が極めて良く、加工時間がとても短くてすみます。また切削後の磨きもし易いので、短時間で金型が作れる点がメリットでした。
しかも普通の金型同様、梳り出して作りますから精度も十分高いものとなります。
さらにまた熱伝導率が鉄よりも高く、放熱が良いので成形性も良好です。
耐久性は1000~2000ショット程度といわれています。

<短 所>

金型が高額だった時期は、普通の金型より3~4割程度コストが安いし、完成までの時間が短いということでもてはやされました。
しかし海外からの安価な金型が流入し金型の平均価格が下がる一方、アルミの価格が高騰し、現在では海外産の鉄金型よりむしろ高いものとなっています。
また鉄の金型と較べると、溶接などの修正ができない点もデメリットです。金型完成までの短さを了として、辛うじて使われているのが実情です。

<まとめ>

現在はまだ何社か供給するメーカーがありますが、価格と内容から衰退してゆく可能性が高い技術です。
しかしアルミ型の表面処理によって耐久性を向上させる技術なども研究されており、将来もう一度見直されることもあるかも知れません。

④ カセット型

これは金型用のうち製品に触れる一部分のみを製作し、後の部分は共通化することで金型コストを下げる技術です。現在簡易型の中では一番普及している技術です。

<作り方>

金型には製品を流し込むスプルーと呼ばれる湯道や、製品を取り出すためのイジェクター機能などがついています。
これらの部分を共通化したベースを作り、毎回製品を作る中部分のみをカセットにして差換えることで安価に金型を作る技術です。

<長 所>

基本的には鉄を削って作った金型なので、精度も良く耐久性も十分に見込めます。 特に小さな部品などではカセットの差換えだけという着脱の簡便さから多品種小量生産に向いているとしてよく使われています。
耐久性は10,000~50,000ショット程度といわれています。

<短 所>

機構を共通化することで無駄なスペースが生じるので、製品の大きさに対してカセットが大ぶりになりがちです。
そのカセットは鉄の塊ですから手で持ち上げて差換えるという構造上、余り大きなものにすることができません。ということでカセット型で作ることのできる製品はかなり小さな部品になってしまいます。

<まとめ>

ギヤ・ネジなど小さくてかつスクリューなどの機構にコストがかかる金型では非常に有効な方法だと思われます。
また小さな部品を多く使う業界では、重宝されるでしょう。★テクノラボでは④と⑤を合わせたアルミカセット型を主として使っています。

⑤ 共取り型

これは一つの金型に幾つもの部品を彫り込んで同時に作る方法です。 幾つかの部品で構成される製品などの製作で良く使われる方法です。

<作り方>

基本的には通常の金型と同じ製造方法ですが、一つの金型に幾つもの別の種類の製品を彫り込む事が普通の金型とは異なります。

<長 所>

ケースなど、製品は通常幾つかの部品で構成されますから、これらが一度に作れれば部品単価も下がりますし金型費も安上がりになります。
また金属の金型なので精度も良く、耐久性もかなりあります。
耐久性は10,000~100,000ショット程度といわれています。
さらに金型の修正(溶接や追加工)も本金型と同様にすることが出来る点が長所です。

<短 所>

大きさや形状が異なる製品を一つの金型面に彫りこむことから、金型にかかる圧力に差が生じ、大量に作る時には金型が歪んで壊れてしまう原因となります。
また一緒に流し込んでも製品の大きさが違うので、片方は溢れてバリが生じ、もう一方は流し込みが足らずにショートしてしまうなどの問題も多く発生します。

<まとめ>

現在金型費用を低減する手法として一番一般的に用いられている手法です。金型と成形の両方の知識が問われるので、事前に良く相談してから決定すると良いでしょう。