「抜き勾配」という単語を聞いたことがあるでしょうか?
身の回りのプラスチック部品、特に細長いものを良く見てみると、ほとんど全てのプラスチック部品の側壁は僅かに傾いています。これを「抜き勾配」と呼びますが、プラスチック部品を(射出成形で)量産する時、この抜き勾配は必ず必要になるので、マメ知識としてご紹介します。
【なぜ抜き勾配が必要なの?】
射出成形というプラスチック部品の製造方法では、必ずこの抜き勾配をつけるということが必要です。なぜでしょうか?
射出成形では溶けたプラスチックを金型の中に充填し、金型を左右に開いて中から部品を取り出すという作り方をします。抜き勾配がない、または不十分であると金型から部品を取り出すときに部品が金型に抱きつき/貼りつき、取り出せなるのです。 射出成形は自動で部品を生産するため、金型に製品が残ってしまうことは致命的なミスになります。前の製品が残ったまま、次の製品が射出されて圧力で金型が破損してしまうためです。
ですから安全確実に部品を金型から取り出すため、製品形状に抜き勾配をつける必要があるのです。 抜き勾配がない/少ないと、製品が取り出せても取り出す際に引っかって傷だらけになってしまうといった不良も発生します。
この抜き勾配のルールはとても厳密に金型設計に適用されていて、ほんのわずかな部分でも抜き勾配がない場所があると樹脂が抱きついてとれなくなります。金型で作る部品についてはすべての斜面に対して抜き勾配をつけることが必要になることを知っておいてください。
理論上は0.5°以上の抜き勾配を付けることで部品を取り出すことができると言われていますが、実務的には2.0°以上の抜き勾配をつけることが推奨されています。
【製品設計をする方への助言】
以上を踏まえて、プラスチック部品を設計する時は次の手順を意識しておくとよいでしょう。
- 設計中は常に抜き勾配を検討
試作段階は3Dプリンターで部品を作るために抜き勾配を考慮する必要はありません。だから設計段階で抜き勾配を考慮せずに製品設計を考えてしまうことは多いかと思います。しかし完成してから抜き、勾配を後からつけると、組み立てや勘合の際のフィッティングに影響を与える可能性があります。それ以上に抜き勾配の角度によっては全体的な製品イメージ(意匠)に大きな影響を与えます。常に設計中、抜き勾配を考慮しておくことで、設計変更や試作のやり直しによるコストを抑えることが可能となるため、設計される方は意識されることをお勧めします。 - キャビティとコア面の意識
プラスチックで量産部品を作るにあたり、必ず理解しておかなくてはいけない概念の一つに、金型のキャビコア面(左右面)の理解があります。金型の取りつけた時の右側をキャビティ面、左側をコア面と呼びます。キャビティ面(右側)は必ず体裁面(綺麗な面)となり、コア面(左側)は突き出しの跡が残る汚い面となります。 なぜこのようなルールが徹底されているかといえば、射出成形機には完成部品を自動で取り出す機構があり、必ずその取出し機構が左側(コア側)についているからです。
プラスチックは溶けて金型の中に流し込まれます。冷えて固まる際、プラスチックは収縮するためにその収縮を抑えるため金型の中には非常に大きな圧力がかけられ続けます。完成したプラスチック部品は金型に強い圧力で貼り付いていて、人間の手で剥がすことが困難です。
もし反対側(キャビティ側)に部品が抱きついてしまうと、人間の手では取り出すことができなくなるため、金型を一度機械から降ろして金型をばらして取り出す必要があります。これを「キャピ取られ」と呼びます。キャビ取られが頻繁に発生するようでは量産することができません。このためキャビ側の抜き勾配は大きく、コア側の抜き勾配は小さめに設計されることが多くあります。
逆にコア側については小さな面には敢えて抜き勾配をつけないで、キャビ取られを防ぐといった処理も行われることがあります。
設計時に理解しておきたいポイントです。 - 抜き勾配の角度
上述したように、機構に関わる構造を配慮する必要があるので、抜き勾配の角度を一律に指定することはできません。しかし原則としてはどのような小さな面でも0.5°の抜き勾配をつけておくことを配慮した方がよいでしょう。また、ある程度以上の深さ(30mm以上)がある場所については、2度以上の抜き勾配をつけるようにすることをお勧めします。
それから表面処理としてシボ加工をする場合、更に注意が必要です。
シボの粗さ(深さ)に応じてさらに大きな抜き勾配が必要となるためです。シボに応じた抜き勾配の角度については、シボメーカーが推奨値を提示しています。それに従って設定することに配慮してください。
逆に光沢磨き処理の場合は、理論上抜き勾配は少なめでも大丈夫なハズなのですが、硬度が柔らかい材料の場合、光沢面ほど金型に貼りつくというトラブルを起こすこともあるので、安心は禁物です。
結構よく知られている抜き勾配の話ですが、知識確認の意味も込めてもう一度まとめ直しておきました。
