簡易金型に特化してプラスチック部品を作ってきたテクノラボでは様々な簡易金型の変遷を見てきました。私自身、30年以上プラスチックと金型の業界に在籍し、その中で生まれて消えていった金型技術を多く見てきました。
私が金型を作っている時代の中で丁度オンタイムで誕生し、有名になり、今まさに消えかけているのが「樹脂型」という分野です。一言で言えば、3Dプリンターが出現するようになって、この3Dプリンターを使って金型を作ろうとしたのがこの分野だと言えます。
歴史を振り返ると同時に、将来についても少し解説してゆきます。

【昔からある樹脂型】
実は樹脂型というのは3Dプリンターが誕生する遙か前、1960年代にも流行ったことがありました。 この時期にはまだ金型の作り方自体が確立しておらず、今のように鉄を削り出して作るというのが必ずしも唯一の正しい金型製造法ではなかったので、アルミや鉛あるいは電鋳など様々な金型の作り方が試されてきた時期で、その中の素材の一つとして樹脂型も社会の中で使われていました。
当時はエポキシ樹脂によって樹脂型を作るという挑戦がかなり積極的になされていました。有名なところでMETZ(メッツ)材と言われるアルミ粉充填エポキシ樹脂を使って金型を作る試みが有名ですし、他にも複数社の大手プラスチック加工メーカーが樹脂型の開発と利用を行っていました。
METZ型とは、メッツ材と呼ばれるエポキシ樹脂(硬化前は液状)を、真空注型のように流し込んで金型を作る技術です。私事で恐縮ですが、子供の頃、プラスチック工場を営む父の車でこのメッツ材を作っている会社にも行ったことがあります。遠い昔にその会社自体がなくなってしまったので今ではロストテクノロジーですね。
このエポキシを使った簡易型作りは、手間暇がかかり過ぎる割に耐久性が低いので結局すたれていってしまいました。日本の人件費が安く、機械加工の単価が高かった時代にだけ成立した金型モデルだった訳です。
【3Dプリンターの出現と3Dプリンター金型】
3Dプリンターが出現してきてから、再び樹脂型に脚光が集まるようになります。
1980年代に名古屋市工業試験場の小玉先生が3Dプリンターの概念を発明し、アメリカのチャックハリス氏が製造装置を特許化して世の中に実用化したことで、1990年代以降に3Dプリンターは急速に広がっていきました。
この3Dプリンターを使って金型が作れないかと考えた人たちがいます。最初は光造形のメーカーであるJSR社が剛性がとても高い光硬化樹脂を光造形装置に採用することで、そのまま金型を作る技術を上梓しました。
一時期だいぶ話題に取り上げられたこともありますが、せいぜい20ショット程度しか打てないこともあって、普及することなく消えていってしまいました。
光硬化という材料の特性上、どうしても広い面積で硬化させた場合、エポキシの剛性を十分に強くすることが出来なかったので耐久性が乏しかったわけです。
【インクジェットタイプ3Dプリンター金型】
その後3D プリンターの方式も増え、インクジェットタイプの3Dプリンターが世の中に出現します。
このインクジェットタイプの3Dプリンターを使って金型を作ることメーカーが出てきました。
インクジェットタイプの3Dプリンターの特徴として、光造形よりもはるかに微細な加工ができ、強い素材を使うことができるという2つの利点がありました。タンクに入っていて使う分だけ吐出するので、光造形と違って初期費用が安く、材料の品質管理がしやすいので金型の材質がとても安定しました。

3Dプリンターを使って 1日で金型を作るというメーカーが出てきて、これが将来の簡易金型の主流になるのではないかと思われたこともありました。
3Dプリンターを使った金型というのは一定程度使われるようになりましたが、正直コスト面と対応サイズの面から、それ以上の成長がありませんでした。
アルミの切削加工がコスト面で3Dプリンターより遥かに安価になってきてしまい、この手法の魅力が失われてしまったからです。
そしてもう一つがサイズ面の制約です。 そもそもインクジェットタイプの3Dプリンターは造形できる大きさがかなり小さいことと、大きくしようとすると歪んでしまうという問題があります。 この制約によって、とても小さな部品の金型しか作れなかったのです。
ごく一部のメーカーを除いて、3Dプリンターを用いた簡易型をつくろうとするメーカーは世の中から消えて行きました。期待を持って見つめられていた3Dプリンターを用いた簡易型は時代の陰に消えようとしています。
【樹脂金型の将来】
3Dプリンターを用いた簡易型以外でも、樹脂金型をつくろうとする動きは存在します。
- 切削方式
アルミの切削加工費が3Dプリンティングと同等以下になったことが、樹脂型が市場化しなかった大きな原因です。その教訓からアルミよりも更に削りやすい樹脂を削って簡易型をつくろうとする動きが一部で出現しました。この樹脂型は殆どが試作加工メーカー発の技術だと言えます。主に普段樹脂部品の試作を切削で行っている工場が、サンプルを試作した後そのまま量産を受託しようとして取組みを始めた技術です。
ただ切削方式の樹脂型の大きな問題として、熱可塑性と熱硬化性樹脂の問題があります。
樹脂型として使用するためには、原則として素材は熱硬化性の樹脂を使用する必要があります。 熱可塑性の素材を使って樹脂型をつくると、簡易型に成形品が貼りついたり、最悪樹脂型が成形の熱と圧力で溶けてしまったりするのです。そのため切削方式の樹脂型には熱硬化性の樹脂ブロックを使用しなければなりません。
しかし熱硬化性の樹脂ブロックはかなり高価で、結局アルミを加工するのと余りコストが変わらず耐久性だけが低くなるという結論に至ることが多いようです。そのため樹脂素材を切削する樹脂簡易型は余り普及していません。テクノラボでも何回もトライしてみましたが、これは中々実用化が難しい技術だと感じました。 - 光成型
3Dプリンターの次の技術として、コロナ禍以前は「光成型」と呼ばれる方法が脚光を浴びていました。3Dプリンターが積層で形状を成形するのに対して、光成型は透明度の高いシリコーン型の中に直接熱可塑性樹脂ペレットを入れて、溶かして一体成形するという技術です。量産と同様の材料を使用して、かつ積層の段差や積層部分の接着強度を気にすることなく製造することが可能な技術として、注目を集めたのです。特にシリコーン型という非常に安価に作成できる型代替品を使って部品の複製が出来るのは、ごく少量生産の希望と思われる側面もありました。
しかし結果として余り実用向きではなかったようです。現在でも、光成型の研究や実証は行われていますが、溶けた樹脂が高温になるためシリコーン型の膨張が大きく寸法精度が安定しない事や、成形サイクルがとても長いこと、なによりもシリコーン型の耐久性がとても低く、成形可能数が10ショットに満たない場合もあってシリコーン型を償却することが出来ないという点が大きいのだと思われます。
消えては生まれる樹脂型の盛衰ですが、そろそろ樹脂型という選択肢はなくなるのだろうとテクノラボ的には考えています。なぜなら金属と同等水準の価格であれば樹脂は耐久性が絶対に低くなりますし、そもそもリサイクルにも向かない素材でもあるからです。
未来のことは分かりませんが、ひとまず樹脂型の研究をテクノラボがすることはもうないだろうと考えています。
