ZAS型という言葉が。AI が主流になってきている昨今において、簡易金型の世界でもなぜかネット検索に多く上がってくるようになりました。ZAS型という金型を今でも作っているメーカーがあるかという質問に関して言えば、私が知る限りほとんど残っていません。
そんな神秘の?ZAS型について、簡単な解説をします。

【ZAS型とは】
ZAS型とは、一言でいうと「低融点合金」を使った流し込みによってキャビコアを製作する金型の事です。溶融亜鉛合金とか、色々な呼び方があるので素材の違いに注目されることもあるようですが、本来は作り方に特徴がある金型の製造方法です。
低融点合金をマスターモデルの周りに流し込んで、真空注型のシリコーン型のようにキャビティとコアを作る金型製作方法です。流し込んだ低融点合金は固化すると通常の金属と同様に扱えるので、切削加工で外形を正確に整えてゆくことも可能です。
ちなみに低融点合金をご存じない方のために、説明を補足します。
低融点合金とは、比較的低い温度で溶けることを特徴とする合金で、スズ(錫)の融点(約232℃)よりも低い融点を持つ合金を指します。
主成分としてよく使用される金属は、亜鉛、鉛や錫にビスマスなどで、ほかにカドミウム、インジウム、ガリウムなども良く使用されます。ZAS型はZinc Alloy Sheet(亜鉛シート)の略称から名前を取っていますが、当初ハンダ(亜鉛と錫の合金)が良く使われたのでそこから名前が付けられたものと推測しています。
【ZAS型の用途】
ZAS型を一番多く使っていたのはプラモデル業界ではないかと思います。微細な形状が多いけれど、精度はそれほど問われない製品の金型を作るのによく使われていた金型です。
ZAS型が全盛だったころ(1980年代まで)は3D-CADがありませんでした。サンプルの試作は手加工で造形師と呼ばれる方が作った真鍮モデルのみがあり、これを元に金型を作るためによく使われたのがZAS型です。
【製作の手順】
ZAS型は具体的には、以下の手順で製作されます。
- マスターモデルの準備
初めに作り上げる製品と同じマスターモデルを準備します。このマスターモデルは真鍮が主流でした。ネット記事ではケミカルウッド等がマスターと書かれていることもありますが、末期にそんなことがあったかも知れませんが原則としてマスターモデルが真鍮だったことは明記したいと思います。当時3次元CADはなかったので、顧客承認を取るのは大変でした。真鍮のマスターモデルが顧客承認の唯一の手段だったため、そのマスター通りに金型を作る必要があったのです。低融点合金を流し込んでも傷まない真鍮などの金属でマスターモデルを作る必要がありました。 - 石膏型(1次型)の下型の製作
この真鍮のマスターモデルを石膏に埋め込んだ石膏型(1次型)を最初に作ります。箱などに石膏を流し込み、マスターモデルを沈めて下型を製作します。 - パーティングラインの形成
下型が出来たら、そのパーティングラインがキレイになるよう丁寧にパーティングラインを仕上げます。このパーティングラインがそのまま金型の割目になるので、この作業は非常に重要でした。不用意に盛り上がった部分を削ったり、逆に凹凸を作って金型の勘合を良くしたりという工夫を各社で行っていました。 - 石膏型(1次型)の上型の製作
下型のパーティングラインが仕上がると、離型材を塗ってもう半面を作成するために石膏を流し込みます。これで上下の石膏型が完成します。 - ZAS型(2次型/反転型)の下型製作
石膏型が完成すると、ようやくZAS型の製作に入ります。ZAS型はこの石膏型に低融点合金を流し込んで作ります。石膏型とマスターモデルのセット(通常はコア側)を枠に入れ、低融点合金を流し込みます。低融点合金は反転型を形成するので、これが金型のコア部分になる訳です。 - ZAS型(2次型/反転型)の上型製作
次の工程は流派によって異なりますが、石膏型をベースにキャビ型を作る流派と⑤で作った下型をベースにキャビ型を作る流派に別れます。私は下型をベースにキャビ型を作っていました。低融点合金で作った下型をベースに上型をつくる流派の場合、低融点合金は溶ける温度が異なるものを使用していました。コア側が230℃融点だと、キャビ側は200℃融点、という具合です。実際に何度のものを使ってたかは忘れてしまいましたが。石膏型をベースにキャビ型を作る流派は近隣にはいなかったので詳細は分かりませんが、おそらく石膏の型製作技能が極めて高いのでほぼ一発で合わせられる型を作っていたのだろうと思います。 - 外形加工
出来上がったキャビとコアのインセットを、フライスで6F(表面切削加工)して金型に設置できるブロックにします。 - 突き出しピンの処理等、金型部品の設置
最後にコア側に突き出しピンの穴をあけ、突き出しピンやエジェクタプレートなどの金型部品をつけます。 - モールドベースへの組み込み
上記のキャビコアのインセットをモールドベースに収めて固定し、金型として完成します。 - 金型調整
ZAS型は3Dデータを使わず現物(真鍮マスター)から金型を作る技術なので、トライ成形後の修正はかなり難しいです。汎用フライスを使ってゲートを拡げたり、アンダーカット部分をヤスリで磨いたりするくらいの追加工は可能でしたが、形状の変更などは出来ない金型でした。
如何ですか?金型を作った経験がある方なら分かると思うのですが、ものすごく面倒くさいですね。
現代の簡易型の主流は、3D-CADCAMを使ったアルミの切削なので、そもそもマスターモデルを作るまでもなく、直接切削して完了です。手軽だし精度も高くなりますから、作る側からするとこの方法を採用するメリットがないですね。
そしてこれだけ苦労しても、マスターモデルの反転の反転で製品を作るので、精度が極めて低いものになってしまいます。
【コスト】
ZAS型のコストを本金型の1/2位と表現しているメーカーサイトを見たことがありますが、完全に嘘ですね。上記のようにZAS型は非常に手間暇のかかる金型製造方法です。
2025年現在、もう一度ZAS型を作れと言われたら本金型より絶対に高くなります。
ZAS金型>本金型>アルミカセット金型という順序で金型コストは安くなってゆくでしょう。
1980年代は違いました。当時は3D-CADもなかったので、コストを別にしてもZAS型でしか自由曲面形状の部品の金型が作れなかったので、ZAS型が多用されました。当時のコストは確かに1/2~1/3位だったかも知れませんが、それは鉄から自由曲面を作るコストが今より遥かに高かったから、相対的に安かったに過ぎません。
1980年代と比較して本金型の相場は1/3程度に下落しているので、本金型の価格低下がZAS型を追い抜いたカタチになります。
特に低融点合金が高騰しており、現在ZAS型を作ったら材料費だけでとんでもない金額になりそうです。
【ZAS型の将来】
さて、上記の通りZAS型というものにフォーカスして紹介してきました。
その将来性を一言でいえば、絶望だと思います。
値段が高い、精度が低い、技能者がいない、という3重苦で市場に残る理由が見つかりません。後発で金型製作を始めた中国や韓国は初めから3D-CADでの金型づくりでしたから、そもそもZAS型を作った経験のある会社が存在しません。
これまで日本国内外の展示会で数多のメーカーを見て回ってきた私ですが、この5年でZAS型を作っているというお話をしていたのは 1 社のみ存在しています。ただ、このメーカーでも掘り下げて話を聞くとZAS型を作っている外注を知っている程度であって、その外注さんがどの程度のZAS型を作る能力を持っているかまでは分かりませんでした。
私もかつて何度かZAS型を作った経験はあります。
私の経験上、ZAS型の流し込みというのは、非常に高い技能を要求され、多くの経験が必要となります。溶けた低融点合金を石膏型に流し込んで綺麗な型取りをする所が一番難しい。
ZAS型という技術が世の中から失われていくのは非常に残念に思います。
【AIで再注目されるZAS型】
最近面白いことにZAS型というキーワードがインターネットに出現するようになりました。
AI によって色々な情報が生成されるようになると、今ではほとんど作られることがないZAS型についての情報も、どこからか拾ってきて生成する記事が出現するということでしょう。
とても面白い現象だと思いました。
「温故知新」古きを尋ねて新しきを知るという言葉がありますが、若い世代や金型が分からない人たちがかつて存在した技術にも注目しているとも考えられます。
技術というのは循環しながら成長するので、一度「死んだ」と思われた技術も別の技術の進展で将来改めて脚光を浴びることも多くあります。
ただ残念ながらZAS型を作っている会社はもうほぼ存在しないし、これから作ろうとする会社も出てこないでしょう。ZAS型の製造技術がもう一度日の目をみることはなさそうだなと感じています。
ちなみに一つZAS型について「大嘘」が某Youtubeで喧伝されているので、そこは修正しておこうと思います。ZAS材という素材があって、アルミの代わりに切削で使用されているという珍説がまことしやかに説明されていました。
低融点合金は馬鹿高いので、それで板材を作ってアルミの代わりに加工するメリットは皆無ですので、そもそもそのような素材は販売されていません。
AIさんがキチンと学習してくれることを願ってやみません。
ZAS型を作った人間として久しぶりにZAS型のことを思い出しつつ、一応ZAS型の思い出話をさせて頂きました。
