プラスチックでものづくり2012 株式会社テクノラボ

デザインと設計の違い

「デザイン」は一般的には外観意匠にかかわる部分を創り上げることを指していて、「設計」はより詳細な機構・構造にかかわる部分を作り込むことを指しています。
デザインの稿で述べた内容と比較すると、デザインは「売れる」という目標を達成するためにより広い範囲の仕事をしています。それに対して設計は、デザインが決めた枠の中でより深く、具体的で詳細な形に製品を仕上げてゆく仕事をしてゆきます。

例えば当社が頻繁に行うIoTデバイスのケース設計では、具体的には次のような作業をしています。
・外形についてデザインに従って正確な寸法を設定する
・量産時の加工技術を想定し、その加工技術で製作できる形状になるように構成部品を形づくる
・各部品のコストが妥当になるような形状を検討する
・部品同士に嵌合があればその構造と寸法を決める
・複数部品の締結方法を決め、そのための構造を形づくる
・内蔵物があれば、内部形状との干渉を確認する
・組み付けができるよう、各部品間の隙間を検討する
・複数部品を組み立てる場合、手順を考慮して矛盾が生じないようにする
割と細かくて深いですよね。

因みにデザインと設計には、どちらも英語ではDesignと訳語が充てられますが、正確に表現しようとするならばデザインは「Styling Design」、設計は「Mechanical Design」と書き分けることも出来ます。

設計の役割の重要性と難しさ

製品開発の成功を決めるポイントは、製品そのものの<有用性>、<実現性>、<経済性>の3つだとする観点があります(デザイン思考で言われる一分類)。この3つの観点を製品設計の何処にあたるかを考えると「製品の有用性」すなわちその製品が消費者にとって役に立つかどうかを決めるのはデザインの範疇になります。製品を実際に製品として作ることが出来るかどうか「実現性」と、消費者の求める価格で販売しても利益が出るかどうか「経済性」は、設計の範疇になってきます。
ですから設計はデザインと並んで、製品開発の最上流工程にあって大変重要な仕事です。

しかし設計は重要でありながら、時系列的な観点から見ると非常にデリケートで難しい側面を抱えています。それは設計作業は製品の販売期間中ずっと続くということです。
当初製品を設計する時は、ゼロからはじめるのでもちろん難しい仕事です。その設計情報を基に製品が実現され、かつそれは経済的に作れるかどうかが判断されるので、設計の良し悪しは製品開発の成否に大きく影響します。しかし実はその後も難しい設計上の問題は続くのです。

ゼロスクラッチから製品を作る場合、その後の工程で当初予見しなかった問題が次々発生します。同じような冷蔵庫を何十年と作り続けているメーカーでさえ、新機種の設計後には予見できなかった問題を次々と見つけて対応することになるので、初めて設計する製品で問題が少ないというのは奇跡的なことでしょう。言い換えれば、新製品開発では絶対に問題が発生します。

初期費用を投下して金型をつくる時、量産工程に入る時、出来上がった部品を組み立てる時、そして実際に製品を出荷した後に、新たな問題は次々と発生します。販売が増えれば更なるコストダウンが必要になります。量産においては継続的に何らかの問題が発生するのです。
こうした全ての局面で問題が見つかる度に常に設計が見直され、それを基に加工業者に修正指示が出されることになります。
つまり製品開発の難しさは、こうした継続的に発生する問題に対して、設計が常に答えを出せるかだと言っても良いかも知れません。

デザイナーの仕事は重要ですが、一度デザインが決まってしまえばその後には大きな影響はありません。部品の加工業者は製造期間中ずっと付き合う関係ですが、もしダメであれば変更することも可能です。
しかし設計者を変えることは、新しい設計者が当初の設計意図を全て理解出来るわけではないので、非常に困難です。それ故に設計者との関係は大変重要になるのです。

なぜ製品開発の失敗が起きてしまうのか?

@そもそも設計や製造プロセスに関しての知識が圧倒的に不足しているケース

まず最も多いのが、製品設計や製造プロセスについての基礎的な知識と情報が不測しているケースです。知識と情報が不測しているせいで、技術的な問題、予算的な問題、納期的な問題、取引先との関係が悪化してどうしようもなくなる製品開発者がとても多いという印象を持っています。

技術的に設計の内容が分かっていない開発者の場合、製品化には程遠いレベルの設計で量産スタートが出来ると勘違いしてしまうケースを見受けます。1個試作する時、100個少量生産する時、1万個大量生産する時とでは、それぞれ製品設計の内容が異なります。これが理解されないまま、1個向きの設計で1万個作ろうとする開発者が結構居て、予想通り量産で動かなくなってしまうのです。

予算的に数が増えれば安くなると安易に考えて量産に突入し、後から困ってしまうケースも見受けます。そもそもの設計が安く出来ないものだと、数を増やしただけではどうにもならないものです。

納期的にそんなにかかると思っていなかった!というケースもかなり多いです。どうしても供給しなければならない時期があるのに、その直前までスタートの意思決定を伸ばしてしまい、意思決定を下した時には間に合わないというケースです。

意外に多いのが外注との信頼関係で失敗するケースです。 製造業の外注は通常の商品売買と異なり、元々利幅が非常に薄い取引です。製造業者からリスクが高い(面倒で手離れが悪い客)と判断されると、お願いしても断られてしまいます。
結果として、誰からも仕事を頼まれないような質の悪い加工業者しか付き合ってくれなくなって、モノが作れなくなるケースもあります。 買ってやる、という態度が前面に出ていて商社さんなどが良く陥る失敗です。製造業の外注は職人気質の方が多いので、頭を下げておけば安くて品質の良いものが入手できるのに、単に高飛車に出てしまっただけで失敗してしまうのはとても勿体無いと思います。

いずれの場合も、自分勝手に判断せずに周りの状況を良く見て情報を集めてから動き出せば、本来避けられるトラブルです。

A設計意思決定についての経験不足

一般的な製品開発の知識があっても陥るのがこの失敗です。
製品開発では、しばしばトレードオフとなる条件が存在します。機能とコスト、品質とコストなどがその典型です。トレードオフ条件となる場合、両者のいいとこ取りは出来ません。かならずどこかで妥協しなければなりませんが、例えば品質面での妥協は、今度は販売相手が許容するかどうかというトレードオフを引き起こしてしまうのです。
新規の製品開発では、しばしば顧客側に妥協することを強いることになります。しかしこれには相当な覚悟が必要で、多くの製品開発者は決断が出来なくなります。
顧客側の要望を絶対視する余り製造側への妥協が一切できなくなり、結果として開発が止まってしまうケースを大変多く見かけます。
おそらく製品開発の失敗で最も多い要因ではないでしょうか?

結局トレードオフの関係にある条件同士で「落とし所」は何処かを明確に出来る意思決定スキルがとても重要になります。「落とし所」はアーリーアダプターが多い当初の少量販売の時と、レイトアダプターが購入するマスプロダクションの段階で全く異なるものになります。多くの場合、大手企業で(レイトアダプター向けの)商品開発を経験した者が製品開発のプロジェクトマネージャーに着くことが多いため、ベンチャー企業の製品開発は当初はオーバースペックになり勝ちである、という点を指摘しておきます。

B海外での開発による意思疎通の問題

C製品開発の意欲

あるべき設計手法

@自社で設計人材を育成する

設計スキルを有する人材を採用する

自社内の人間を教育する

A外注に委託して設計する

設計外注に委託する

外部に委託する場合、最初の選択肢に挙がるのが設計外注への委託です。
「設計」という仕事を受託してくれると明言しているので、すごくわかり易いですし、近年は海外でオフショア開発するので安くてハイレベルです、といった企業も多くあって安心できそうです。
また設計が本業ですから、いつでも遠慮なく(お金さえ払えば)対応してくれる点でも安心できます。
こうした点は設計外注のメリットなのですが、デメリットも当然存在します。

一番の問題は委託者と設計事務所の利害が一致しないということです(エージェンシー問題と呼ばれます)
委託者にとっては最終的な製品の初期費用・製造原価が重要ですが、それはこの設計の良し悪しによって決まります。後々のコスト発生要因となる不良の発生し易さもこの設計の良否で決まります。
ですから後々のコストを最小限にする「良い設計」をして欲しいというのが委託者の希望です。
しかし設計外注を受託する企業は、設計が終わりさえすればチャージが貰えるので、本質的に良い設計をするインセンティブがありません。むしろ後がどうなろうと、手離れ良く設計を終わらせた方が利益が生まれます。
そして更に難しい点は、委託者自身がそもそも良い設計か悪い設計かを判断する能力を持っていないのです。これは設計人材の採用と同じ問題です。
結局、この設計事務所は何だか凄そうだ、で業者を選定して失敗する(もしくは失敗に気づいてすらいない)ということが多い選択肢になります。

委託する設計事務所が優秀で誠意があるという根拠があるならば選ぶ価値のある選択肢です。
ちなみに設計事務所は大手の下請けをしている所が多いのですが、大手の下請けだから安心という考え方はむしろ逆だと言う点は指摘しておきます。
大手メーカーの場合、仕事が細分化されていてかつそれぞれのタスクにタクトタイムが設定されていることが多いので、CADが操作出来るだけで設計スキルが低い人間ほど使い道があるのです。むしろ独自に高い設計スキルを持った人間は使い切れないので、大手の下請け仕事から外れる傾向にあります。

量産メーカー/EMSに委託する

試作メーカーに委託する

デザイナーに委託する

デザイナーにデザインを委託した後、そのまま製品の供給までデザイナーが請け負うという選択肢があります。そうしたデザイナーはかなり稀であって、数として決して多い訳ではありませんが。

基本的には製品のデザインコンセプトを作った人が最終製品まで手がける訳なので、安心な方法だと思います。デザイナーは「売れる」ことを前提としてデザインする訳ですし、売れるほど自らの利益も増えるので、エージェンシー問題は発生しません。

理屈の上では良いことづくめなのですが、如何せんこのような受託をするデザイナーは極めて限られているので、そうした限られたデザイナーの仕事を基に判断せざるを得ないのですが、余りお薦めできる結果になっていないように感じています。
これはおそらくデザイナーの多くが個人事業主だということに関係しているのでは、と思います。
製造は様々なプロセスに渡る非常に幅が広くて深い知識が必要なので、組織として成果を出す必要があります。個人プレー勝ちになると、中々長期的にQCDを保った安定供給を行う体制を構築するのが難しいのかも知れません。

気の合うデザイナーさんが最終製品まで請け負ってくれて、一緒に利害を分け合えるのであれば、きっと是非お薦めすべき方法となるのでしょう。

以上、いずれの方法がベストかについては、企業毎に前提条件が変わるので何とも言えません。
総じて言えば、委託する側が少しでも知識をつけることでより有利な選択肢が増えてくるものだと思います。

設計手法についての近年の動向

参考:具体的な設計の手順

構想設計

モデリング

全体設計が終わると、切り出した個々の部品の詳細な設計をする事となります。
機能を満たす個々の部品を3D-CADで設計してゆきます。
部品同士の嵌合構造について、より詳細に寸法を決め、内蔵物があれば内部形状との干渉しない寸法を設定します。
各部品は当然量産時に使用される加工方法を想定しながら設計されてゆくので、使う素材、加工方法を考慮した上で実際に作れるものとして行わなくてはなりません。
例えばよく使われるプラスチックの部品を設計する場合、その部品が金型から抜ける形状になっていること、均一な肉厚になっていること、樹脂流れに従って生じるウエルドが外観に出ないようにゲート位置を設定できることなどが基本的に考慮されるポイントとなります。
そして最終的な量産を行うための初期費用(金型費)の高低を決めるのは、ひとえにこの部品設計によります。不均一な肉厚だったり、製品体裁面に大きな穴(ウエルドの原因)があったり、そもそも製品を抜く為の構造が極めて複雑になったりする設計では、金型費は跳ね上がり、あるいは製造工程で品質上のトラブルが頻発して不良率が上がって(コストがアップして)しまいます。
加工技術について一定上の知識が必要とされる所です。
ですから金属部品を使った設計をしてきた設計者と、プラスチック部品の設計をしてきた設計者では、加工技術の理解が違うのでそもそも全くスキルが違うことになります。
このモデリング作業が、設計としては一番時間がかかります。
こうした個別の部品の設計だけを大手企業から受託している設計外注は数多く存在します。

アセンブリ

最後に個別にモデリングされた部品を、CAD上で組み合わせて検証し、機能通りに動くか、何か問題がないかを検討します。各部品の干渉を調べて公差を設定するだけでなく、組み付けができるよう各部品間の隙間を検討したり、組み立て手順を考慮して矛盾が生じないようにしてゆくのがこの作業です。

こうした設計の一連の作業は全て3D-CAD上で行われます。
そして近年の傾向としてここまでデータが準備されるとすぐに3Dプリンターなどで試作品を作るようになりました。試作品等を作ってデザイン上の問題点をフィードバックしたり、加工業者に見せて量産性を確認したり、実際に組み立てて見て問題がないかを確認したりして、設計修正に反映するためです。
安価な3Dプリンターの普及はこうした試作評価の世界で、非常に活躍しています。
とりわけアセンブリの工程は実物を使うことで、非常にミスが少なくなっています。

以上3つのプロセス、「構想設計」「モデリング」「アセンブリ」を通して製品の細かな図面を作成してゆくことが設計作業ということになります。

ちなみに設計で使用されるCADソフトですが、実際のモノづくりを行う上ではミッドレンジ(60〜80万円のもの)以上のソフトが主流となっています。Solidworks、MasterCAM、pro-E、CATIA、NXなどのソフトがよく使用されています。
ここ数年は3Dプリンターブームなどから、安価で簡便なCADソフトが多数上梓されていますが、マスプロダクションの設計という観点からは今ひとつというレベルです。
安価なローエンドのCADでもかなりの設計が出来るようになっているのですが、やはりデータの作り込みが不十分で、別のCADにデータを受け渡す際に一部/全部のデータが壊れてしまうことが多く、複数の工程で数種類のCAD間でデータ受け渡しする必要がある製造業では使いづらいものだからです。
設計は基本的にマスプロダクションする前提で行われるので、そこにはそぐわないといえるでしょう。

Coppyright(C)Techno-Labo Co.,Ltd