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ドイツK-2019 視察レポート

ドイツK-2019 視察レポート

2019年10月16日から23日まで、ドイツ・デュッセルドルフで開催されているK-2019を視察してきました。

テクノラボでも海外の顧客を増やそうと活動を広げていまして、これまで欧州のプラスチック産業について顧客から色々な聞き取りは続けてきました。一方で顧客の目を通した情報が中心で、実際にどのようなメーカーが居るのか確認出来ていませんでした。

今回視察して見て感じましたが、これまで顧客からヒアリングした内容と、現地の事業者の状況はおおむね一致していたように感じます。つまり、欧州でもプラスチック製品の製造は中国で行われることが殆どで、欧州自体では限られた生産しか行われていないように思います。そうした点では、日本の企業が他国に進出する場合は、中国の企業に対して優位性をどう魅せてゆくのかが重要なのだと感じました。

以下、展示会の報告です。

【概要】

K-2019はK-show(K展)とも呼ばれるプラスチック関連の総合展示会で、3年に1度開催されます。今年で10回目を迎え、プラスチック関係で最も権威ある展示会の一つでドイツの西端、ベルギーやオランダに近いデュッセルドルフで行われます。前回の来場者数は1週間で延べ23万人、出展者数は約3,300社、。今回使用した会場は18ホールあり、延べ面積は26万㎡(+外部敷地4万㎡)でした。

実際、すごく広い会場です。(幕張メッセは11ホール、16.4万㎡だそうです)特徴として非常に国際色豊かな展示会(3分の2が海外からの出展)で、欧州各国およびロシアからの来場者が多いのはもちろん、中国等の東アジア系、インド系、東南アジア系、中東系、アフリカ系と、将に世界中から人が集まっている展示会です。 チャイナプラスも規模は非常に大きい展示会ですが、中国系がメインで若干欧州からの来場者が来ている程度なので国際色という観点では、K展に大きく分が上がります。

会場は非常に活気があり、これだけ大きな敷地にも関わらず内部は十分な来場者で埋まっています。公表している来場者よりも、正直はるかに多い印象。1日あたりにすると3万人なのですが、体感としてはその倍くらい人がいる感じがします。思うに日本の展示会は参加が無料のものが多いので、1~2時間ですぐに帰る来場者もカウントされます。対してK展は参加費用も一定以上(一万円超)ですし、遠方から泊りで来場している来場者が多いので、終日展示会場に滞留しているのではないですかね。

出展企業は材料・添加剤系、製造受託系、機械・加工設備系に大きく分類されます。 このうち特に機械・加工設備系が最も多くのホールを占有していました(19ホール中11ホール)。 展示にスペースが必要なこともありますが、それ以上の理由がある気もします。

【内容】

1.国際色豊かな展示会

今回の展示会を視察していて最も印象に残っているのが、中国企業の圧倒的な存在感です。

やはりドイツでも中国が実質的に製造を肩代わりしているのだなと感じます。 金型や成形といった生産の実働部隊の展示に関しては大体中国企業で占められ、質・量ともに非常にバラエティに富んでいて、ほぼ全ての分野を網羅していました。 中国企業がまとまっているエリアでは、十分な集客が出来ていたように見えましたし、実際に商談している来場者が多かったと思います。

それから意外に台湾企業のブース出展が多く、こちらも存在感がありました。もしかして中国調達の迂回ルートとして機能しているのかな、という印象を受けていますが、それ以上の判断材料はありませんでした。

目立った国という点では、インド企業の出展も多くありました。これまでの当社の取引の範囲で考えると、まだまだインドの製造業は他国に輸出できる水準からは程遠く、ビジネスになるとは思えないので少し不思議な気がしました。歴史的文化的つながりなのか、単に図々しいだけなのか、どちらなんでしょうか。

2.環境やエコへの配慮を狙っているが、実体が伴っているかは微妙

今回の展示会の一つの大きなスローガンが、プラスチック産業自体の自浄作用による環境への取り組みだったと思います。海洋ごみの問題など、プラスチック産業に対する風当たりがとても強くなっていることに大きな脅威を感じているのは、国は違えど皆同じですね。業界として取り組みを行わなくてはいけないということが、会場スローガンでもセッションでも幾度となく繰り返されていました。

ところが、実際の展示としてリサイクル、エコ、グリーンプラなど、特別に目新しい何かがあった訳ではありませんでした。 今まで通りの粉砕・機械再生や化学再生、バイオプラなどの展示がやや多めにある程度なので、この辺はインタープラスやチャイナプラスといった展示会と較べて、進んだことがある訳ではありません。むしろチャイナプラスの方が、グリーンプラやリサイクルに対しての展示の質・量はずっと大きかったように思います。

一方で、相変わらずポリエチレンの袋の量産効率などを突き詰めた、全くエコではない展示も多数あります。業界の中でも必ずしも意識が揃っていないということが伝わってきます。

3. とは言え会場の人出は多く、関心の高さは明らか。

K展に参加して、もう一つの印象を受けたこと、来場者の数が多くて活気があることです。日本ではプラスチック産業が斜陽産業と認定されているので、インタープラスやインターモールドといったプラスチック関連の展示会は年々縮小していますし元気もないのですが、K展は賑やかですね。

今回は直前に宿泊施設を予約しようとしたために、展示会場のあるデュッセルドルフでは適当な価格で宿が取れないという事態に直面しました。

仕方なくデュッセルドルフから60kmほど離れたケルンに泊り、毎日通うことにしたのですが、驚いたのが私のような参列者が非常に多かったこと。そもそもK展の入場チケットを持っているとデュッセルドルフからケルン、ボンに至る全てのエリアで会場までの交通費が無料(ICE:ドイツ版新幹線を除きますが)となっています。

そしてケルン駅にはデュッセルドルフまでの専用列車(?)が走り、首から入場証を下げた人達がホームから溢れている状況でした。これだけでも規模の大きさが分かって貰えるのでは?

もちろん会場があるデュッセルドルフの街はそれ以上に参列者が集まっていて、街の辻々にK展のポスターが貼られ街を挙げて歓迎ムードに包まれています。プラスチック産業に長く従事するものとして、これだけ肯定的な歓迎を受けたのは正直初めての経験でしたから、遥々ドイツまで来た甲斐があったとすら思いました。

社会全体で見ればそれだけプラスチック部品に対する需要は多いですし、世界的に経済も成長しています。インドや中東の発展途上国が次々と新しい需要を増やしていますし、先進国でも日々の食品などで大量の包装資材を使用します。考えてみれば世界のプラスチック産業自体、成長している訳ですからね。

ただK展は先進国ドイツで開催されているので製品開発よりも日常での消費に軸足が置かれていると感じました。出展スペースを見ても、設備>>材料>>>成形>>金型、という感じの面積配分になっていて、この配分に従ってドイツでの市場の大きさがあるのではないかと感じました。

4. ドイツに残っているのは、すでに限られた一部産業のみになってしまっている

K展に出展している欧州企業の展示内容は、建材、医療、航空機、高いデザイン性ある雑貨などを除くと、日常に使う包装などの展示が大半を占めています。そこから実際にまだドイツ国内に残っているのはごく一部のプロダクトに限られているのだな、と推察しました。それ以外はり中国から供給されている、ということになるのでしょう。

もし新製品の開発に力が入れられているのであれば、3Dプリンタやオンデマンド印刷などの開発に関連する設備も必要とされ何らかの展示がある筈です。こうした展示の少なさから見ても、残念ながらドイツ国内ではそれほどハードウェアは開発されていないと感じます。

5. 唯一、エレキとの連携については問いかけが多かった

このようなドイツのモノづくりの空洞化が見え隠れする中、唯一チャレンジしている姿勢が見えたのがエレクトロニクスとの融合(MID)に関連する展示物だったと感じます。

特にアーブルグ社のデジタル化の社会の中でのプラスチックメーカーの新しい仕事の提案は、とても面白い。

またコベストロ社の未来のクルマについてのコンセプトモデルも、こうしたエレクトロニクスとプラスチックの融合の線上にある展示でとても興味深いものでした。ほかにもこうした方向性の展示を狙っている企業が散見され、欧州が何とか新しい産業を生み出そうとしている挑戦が伝わってきました。

ただし、こうした新しい産業の創出につながるような取り組みが主流だという訳ではありません。大きなスペースを占めている大手各企業はこうした展示をしている訳ではありません。ひとまず成長する市場に従う形で、包装を中心とした産業に設備を提供することを目的に効率的な展示を行っていました。

このような展示は材料メーカーでも同感で、とりわけ欧米系の材料メーカーの多くが新しい技術展示よりもこの場を借りた顧客接待に注力していたように思います。 個人的には夢がなくて少し残念な気がしますが、これが展示会の最も効率よい使い方なのでしょう。

6. 展示は上手いなぁ

今回の展示会で改めて感じたことですが、やはり展示の上手さは欧米系企業が一枚上手な気がします。日欧でこれだけ展示の見せ方に差が出る理由を考えて見て、欧州の企業は社内にデザイナーを抱えているか、或いは少なくともある程度デザインのことを理解して丸投げではない形で外部のデザイナーをコントロールできるのではないかと感じました。デザインを外部に丸投げする限り、ここまで出展意図とデザインガイドラインをキチンと合わせるのは難しいと思います。

あと一つ、スペインやフランス、イタリアと言ったラテン諸国で開催される展示会では、基本的に皆お酒を飲んじゃっていて夕方には訳分かんなくなっている人が多いのですが、K展ではほとんど見かけませんでした。これはすごい!!やはりドイツ人だけは、欧州の中でも違う人種なんだな、と勝手に感動しました。

まぁ、もちろんゼロではないですけどね、飲んじゃってる人。

7. その他気づいたこと

その他、今までの流れとは関係のない話ですが、展示会で少し気づいた点についても触れたいと思います。

<インダストリー4.0のこと>

日本とドイツはいずれもかつての製造強国であり、中国に押されているとは言え隙あらば元の地位に返り咲こうとしている点では近い存在です。社会全体がIoT化によってハードウェアを求めてきている中、日独両国には大きなチャンスが巡っていると感じます。クラウド部分はGAFAやBATHに抑えられていますが、IoT社会の到来で必要とされるハードとソフトをつなぐ中間部分は、まだ主要なプレイヤーが決まっていないからです。

少し前からドイツが盛んにインダストリー4.0と広報活動を始めたのもこうした文脈にあると言われています。

余りに広告が上手で、その理想像を今すでに実行していることと勘違いした企業も多いと話題になったので、ご存じの方が多いでしょう。

今回のK展は設備に関する展示も多かったので、IoT化についても多少の展示がなされていましたが、やはり実態はまだまだ及ばないことが多いなという印象です。インダストリー4.0のような分野ではおそらく日本のFANUCさんが最も進んでいると思います。そこにKUKA社等の欧州勢が敵うかと言えば、どうもそんな気はしません。

むしろ安定的なロボットメーカーではなく、斬新な切り口から入るスタートアップが大きく産業を変える気がしますが、そうした企業の展示もありませんでした。

唯一面白いなぁと感じたのが、IKV(アーヘン工科大学)の展示です。

ショット毎の成形条件を機械から吐き出して、製品に印刷したQRコードに紐づけてクラウド上にアップする仕組みが展示されていました。もちろん製品寸法も自動で計測されて紐づけられています。牛肉や野菜と同じように、製品のトレーサビリティーがしっかり取れるという点で、すごく面白いと感じました。

IKVはこれによって最適な上下セットの組み合わせをAIで考えて勘合すると言っていましたが、それは無駄な労力な気がします(笑)。

<ドイツの街並み>

最後に少しだけ息抜きにドイツの街並みについて。

この辺はドイツでも東側にあるため、第二次大戦当時は相当な爆撃にあったと聞いています。私たちが宿泊していたケルンの街では市街の90%の建物が崩壊し95%の居住者が終戦当時に市外に脱出していたそうです。

写真はケルンの大聖堂ですが、そうした中にあって奇跡的にケルンの大聖堂は外側が残っていたということです。その外側を生かして、きっちりリノベートしているのが現在のケルン大聖堂。とってもきれいです。

でも残念なことに、ケルンの街は石畳があまりないですね。これは仕方ないかな。ドイツは不景気に突入していると聞きましたが、街を見る限りかなり人手は多いですし(ドイツ人)、みなお金を使っているように見えました。この辺はバックデータを良く調べてみたいと思います。

いかがでしょうか?長い駄文にお付き合いいただき、ありがとうございます。3年後、ご一緒にK展でお会いできると良いですね。(林)